RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

ぼくは 文鳥を ころした

まだ中学生の頃、父は鳥の飼育に凝っていて、庭に大きめの鳥小屋を作るぐらいの人だった。ペットショップでお気に入りの鳥を買ってくることも有ったし、何やら近所の同好の士と謀って、野鳥をかすみ網で取ってくることも有った。メジロが好きらしく、飼育数は多かった。(当時は法律に疎かったので父の行為が、法を破っていることも知らなかった。)

その影響か、私も鳥が好きになり、手乗り文鳥を買ってもらってよく遊んでいた。

文鳥の名は忘れた。

よく馴れた鳥で、私が餌を与えると喜んで飛びつき、手を差し出せば伝って肩に乗るほどだった。風切羽を切らなかったのに飛んで逃げもせず、つついて遊べる玩具を自作して、夏の縁側でよく遊んだものだった。

 

ある日、母と父が揃って訪問客と話している後ろに、扇風機を置いていた。扇風機の周りは危ないので鳥をかごに戻せ、と父に言われ生返事をしながら遊んでいた。文鳥は私の頭から少し飛んでは戻ってくる、という動作を繰り返していて、確かに危ないなと思った私は、文鳥に指を差し出した。

文鳥は遊んでいると錯覚したのか、逃げるように飛んだ。そして気がつくと扇風機が嫌な音を立てて止まった。

次の瞬間父に殴り倒された私は、文鳥が扇風機の羽に巻き込まれているのを見た。

「だからかごに入れろと言っただろう!」

父から怒声と拳をふるわれて、私は自分でもわかるほど青ざめて、父に詫びた。そして、文鳥を殺してしまった事に怯えた。命を奪ったことが、父に殴られ続けても理解できなかった。

 

その後の記憶はない。きっと庭の隅に文鳥の墓をつくり、謝ったのだと思う。

それからほどなく、父は野鳥を逃し、その趣味をやめた。なにがあったのかはわからない。私もその後鳥を飼うことはなかった。

ただ文鳥のことを思い出しては、すまなかったと詫びつづけている。