今までに何度かSF大会やファンサークルのコンベンションに参加した事がある。
SF関係は数えるほどの参加で、しかも特定のファンサークルにいなかったからSF作家には知り合いや良く覚えている人がいない。
これが漫画家ならコミックマーケットのスタッフなんぞという因果なものに首を突っ込んでいたせいで見たり話したり知り合いにいたりするのだけど。
それでも印象の強い人はいるのだが、だいたいがそうした場所で目撃して「驚いたなあ」などと一人ごちる程度だから、目撃した後はすぐに忘れてしまう。
そんな私の記憶力に難がある事を差し引いても良く覚えている人が二人いる。
新井素子さんは大阪厚生年金会館で行われた第4回大阪SF大会「DAICON4」の時だった。
エレベータで乗り合わせたワンピースの女性が、あんまりナチュラルに首に豹柄の蛇?のようなぬいぐるみをまとわりつかせていた。周りの人は微笑ましいような表情を浮かべているし、えらくなごやかな雰囲気が流れ始めて、友人に誰だこれはなどと聞くわけにも行かず不審に思っていたら、ロビーでファンに囲まれているのを見てようやく新井素子さんと判った。
そしてもう一人、矢野徹さん逝去の記事を知って、目撃した時の事を思い出した。
矢野徹さんの時は群馬の水上温泉だった。
宇宙軍酒場やカラオケ部屋、深夜のイベントを能天気に巡っていたら同室の人とはぐれてしまった。
遊び疲れて休もうと部屋に戻ったが入れず、仕方がないので温泉へ入りに行った。けっこう大きなホテルだったが、まるまる借り切ったコンベンションなので一般客はいない。
また時間のせいもあってか広い浴場に一人しか入浴客がいなかった。
外国の方だったので今から考えれば話かけたりすればいいものを、浴場の反対側でそそくさと一風呂浴びて飛び出した。
頭を拭きふき出たためにメガネをかけていなかったので、視界はぼやけたままだった。
廊下を歩いていると反対側から誰かが歩いてくる。
皆が皆ホテルの浴衣を着ているものだから、遠目にはまったく判らない。友人かもと思って、仕方なく目をしょぼしょぼさせながらじっと注視した。
近寄ってくる人を見ていたら、1メートルくらい先でようやく判別がついた。
「カムイの剣」の著者近影で見た事のある人が、不快そうな表情でにらんでいる。矢野徹が目の前でにらんでる!
どうも目つきが悪かったせいで、おかしな奴と思われたようだった。
きっと浴場で矢野さんはあの外国SFファンに語りかけたに違いない。何を話したのだろうか。あとでもう少しその場にいれば良かったなと思ったものだった。
この大会で、矢野徹さんが星雲賞を受賞した事を後で知った。
その著書『ウィザードリー日記』を読むのはかなりあと、自分もパソコンを持ってウィザードリーをプレイし始めた頃だった。