RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

零式/海猫沢めろん

ときどき息をするのも大儀いときがある。
そんな時は何も救いはない。何を見ても何をしても、頭にかかった靄からは逃れられない。
死んだ猫のように横たわって、日差しにあぶられ汗を流しても、息苦しいほどの倦怠が夏の熱せられた空気といっしょに肺を満たす。

amazon-海猫沢 めろん

この小説には、倦怠と絶望、そしてその先にわずかな希望が詰まっている。

架空のものを構築する際に、現実から名前だけをまったく違うものに入れ替える手法がある。現実を知っているとギャップや違和感に面白みを感じる、仮想戦記のジャンルでポピュラーな手法だ。アニメ「コードギアス:反逆のルルーシュ」などはその設定がこの「零式」に酷似している。
海猫沢めろん描くところの、神の國と書く小さな島国が太平洋を挟んだ向かい側の巨大な帝国と戦争をした世界。その果てに、世界中に放射能汚染がまき散らされた時代から、この物語は始まる。
発端は現実と相似しているが、その先の歴史はまったく違う。人々は國を占領され高さ1km、幅200kmに渡る壁で世界から隔たれて、その一角に押し込められたままでいる。先行きのない絶望と退屈、蝕まれ、一夜の快楽に溺れながら生きている。
そんな一人、時代遅れのモーターサイクルで衝動にまかせて夜を駆ける、少女朔夜が見る事実と壁の向こう。

一読すると一昔前のサイバーパンクなどを思わせる設定だ。傾向としてはライトノベルだし、登場人物の表現はハードボイルドなのでサイバーパンクのような感じがするだけかもしれない。ジャンルとしてはオルタネートヒストリーだと著者は書いている。
その物語は、絶えることのない熱を帯びている。
こうしたストーリーを語ろうとすると、いつも言葉に詰まってしまう。
簡単に言えば……それは少女の解放の物語だからだ。
開放を求める少女が頼るものはスピードのみ。そのスピードが物語に命を与える。
別にこれでは書いても書かなくても同じだ。ああ。


とりあえず、面白いので読んでみることをお勧めするが、それでも物語中盤までは陰鬱な話が続くので我慢が必要だろう。

しかし後書きを読むと実は本人のほうが面白いのではないかと思ってしまったり。
火浦功的な感じで。