青心社クトゥルーアンソロジーの何冊目だろう…4冊目か、もっと出ていると思っていたが。
クトゥルー神話自体が現実という異世界に構築された物語なので、どんなもんか…と思っていたが、なかなかおもしろかった。巻頭のおいてけ堀、大江戸クトゥルフかと思いきや過去の武士が現代を通り越して未来へ入るのが着想の妙で面白い。そして世界はすでに邪神のものとなっているというのが、これもなかなか。たしかにこれなら異世界だ。
冒頭で出てくる平賀源内が、彼のシャーロック・ホームズのセリフを言うのが面白い。そして赤母衣衆ならぬ黄衣衆(これだけでハスターと知れる)がレジスタンスと戦う世界…世界は存亡の向こう側に行っているわけで。レジスタンスも大変だ。
ウルタールのアルハザード、新熊昇先生渾身の想像力。少年アルハザードが幻夢境にいてネコ集会の話とか聞く話(誤謬を招く表現)。土星ネコとかも登場して、とにかくネコなのだ。登場人物もクラーカアシュ=トン、ラヴェ・ケラフ、キンメリア訛りの筋骨隆々とした大男…想像したら、これが色々と楽しい。悪役は最初温厚なんだけど、ちゃんと激昂してくれるので安心です。
しかし名前を出したからにはそのうち誰かに”温厚と噂の日本人作家荒熊降氏、夜半に某山某寺の境内で遺体が発見さる!争った後はなく、死因は溺死だが境内には水場がなにもないとの事”なんて書かれちゃうんだゾ。俺は知ってるんだ!(そう叫ぶ彼の目は明らかに狂っていた)
他の作品も色々とネタが有って面白い。ワンアイディアであることは短編集であるから気にならない。むしろアイディアを掘り下げる作業を読み取ることが、面白いと言えるだろう。
そんな感じで今度は「深遠に魅せられし者」を読みます。