RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

姉飼/遠藤徹

amazon:姉飼

ホラーが読みたくなったので、書店で探してみた。
 境界小説なんて言い方が出てきたのはいつの事なんだろう。確かにSFにせよ何にせよ、ジャンルが定義されづらいものが多くなった。
 しかしその境界小説と言う呼び名は新聞やマスコミがローリング族とかオタク族なんて呼ぶのと大差がないのだ。かつて中間小説とか大衆小説といった呼び方をされた作品も、同じように名づけられたのだろうか。
 ジャンルとは作品のイメージでありそれが属する幻想を支える共同体のことだ。そうした背景を理解しない限り、ジャンルをただの呼び名だと理解する間違いは続くだろう。
 そんな事を考えながら手に取ったのが「姉飼」遠藤徹
 現実の街の名をもじった舞台で、ある少年が「姉」の魅力に取り憑かれていくさまを描いた作品だ。
 姉ってなんだ?
 人の肉を食いちぎるような猛々しい暴力性を持ち、しかし若い女性の姿でありながら串に刺されて陳列されている姉。その姉に対してサディスティックな暴力を叩き付けるキャラクターたち。姉にまつわる謎を残しながら、激しい言葉で過剰に表現されている描写がイメージを喚起する。
 しかし一読、どうもしっくり来ない。
 特に物語のつかみとも言える冒頭部分の脂祭りは生理的な「いやな感じ」を引き出すためにもっとうまく使えたのだろうと思う。これが絶対参加したくないと思わせるだけの嫌な祭りだ。
 豚からとられた脂を練って神輿のように担いでいると、それが熱気で溶けて担ぐ人々に降りかかる。その臭いは言語道断に臭い。
 臭いに弱い私はここら辺りで嫌な感じが高まったのだがエピソードを挿入すると、これが弱くなってしまう。ここでの気持ち悪さのエピソードが物語を一旦切断したからだろう。
 この作品は日本ホラー大賞を受賞したと帯にある。確かに手馴れているのだが、どうも語り口が上滑りを起こしていると感じられた。それだけでなく、志向(嗜好でもかまわない)がずれるためか、いまいち物語に乗り切れなかったのが惜しかった。
 サディスティックな表現をホラーとするならこれは確かにその範疇だろう。
 しかしこれは怖くない。イメージはどぎついが、その過剰さにかえって上滑りしている。そして情景描写にどぎつさを与えた事の色彩をもっと引き出せば、これをホラーとはせず他のものにできただろうと思えた。