RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

栢の木

検索していて見つけた、とあるバス路線の時刻表。
そこにはいくつもマスが切ってあるけれど、使っているのはほんの端っこだけ。
一時間に一本のバス。平日の朝六時だけ、2本のバスが通過する。
平日は十八時、土日でも二十時には終バスが行ってしまう。
子産坂という名の、何だか想像をかきたてるトンネルを通り、佐世保の駅前へと到る。
栢の木と言う名の停留所は、そんな場所だった。

古臭いぼくのバスは砂利道からだんだんとアスファルトの山道をくだり、木々の間を抜けてカーブを曲がると坂下の街へと進んでいく。
めったにすれ違う車に出会わないのだけど、山あいの砂利道にはガードレールもないので、慎重に徐行して進む。
ギイギイと車体をきしませて進む行程は片道48分。街中で渋滞にあわない限り、この進行が遅れることはない。
この路線の乗客はいつも一人か二人しかいない。
時にはまったく乗客のない、まるでピクニックのような路線だが、ここ最近、栢の木の停留所でいつも一人の女が乗ってくるようになった。
朝は八時、夕方なら四時。
何の用があるのか、決まった時間に停留所に現れ、ぼくに軽く会釈をして乗り込むと必ず運転席のすぐ後ろに座った。
時々小さく何かが聞こえると思うと、その女のハミングだった。
その女が乗る時には、くすんだシートと切れかけた蛍光灯がまたたく車内に、かすかな甘い匂いがひろがった。

検索の手を休めて、つい見入ってしまったその時刻表の向こうには、そんな想像が広がった。
恥ずかしいなあ。