RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

失いたくないもの

どこかで予言者気取りの男が彗星が落ちると卦を立てた。
男は警告し、その日世界はすべて焼けると言い放つ。
人々は嘲笑して男を指さし「世界は昨日と同じく続く」と囃した。

男は大切な世界を失いたくなかったのだ。誰もここからいなくなって欲しくなかったのだ。
だが、その予言の前日、男は事故で死んでしまった。
男にとって残った世界は心配や思いやりの対象であったのだが……それはもう、手が届かなくなった。

箱に入った3つのきれいな石。それぞれをつかみ出す確率は3分の1。
箱から手を出した瞬間に確率は決定するが、その時まではどの石をつかみ出してもおかしくない。
男にとって落ちた星に焼かれた世界や、問題なく続く世界が並列してあってもいいように、
男のいない世界はそこに現出した。

誰もが失いたくないものを持っている。
けれど、それはいつか必ず失われる。
世界から男が失われるように。男から世界が失われたように。