彼女が終電に間に合うよう駅に送ると、コンビニでビールを一缶買う。
部屋に帰り着いたら、ざっと流す程度にシャワーを浴びる。
それがいつものパターン。
今日も踏襲して、熱いのとつめたいのを交互に浴びていく。
風呂からあがると、体を拭きながら冷えた350ml.の缶を一気に飲み干す。
酒に弱い僕は、すぐに顔がかあっと熱くなるのを感じる。
おおざっぱに拭いた髪を後ろに撫で付け、明かりを消してベッドに横たわる。
窓からはぼんやりと、街灯の明かりが差し込んでいる。
火照った体にバスタオルだけをかけて、僕はうつ伏せになる。
顔をうずめた枕から、薄く甘い香りが立ち上っている。
彼女の髪の匂い。
シーツからも、脇に寄ったガーゼのカバーをつけた毛布からも、彼女の匂いが立ち込めている。
さっきまで、このベッドで抱きしめていた彼女の匂い。
甘やかな香りを吸い込むたびに、僕は目眩のような感覚に囚われる。
彼女をもう一度抱きしめられたような気がして、深々と深呼吸をすれば胸いっぱいに匂いが満ちる。
それに満足して息を吐き──
次の瞬間まぶたを開くと、外はすでに晴れ上がった朝の光で満たされていた。
今はもう、枕からもベッドからも、彼女の匂いは失われている。
いくら匂いを探しても、甘く香る安らぎはもう消えてしまった。
ため息をついて事実を受け入れると、のっそり起き上がって僕は窓を開ける。
また次に彼女の訪れる日を指折り数えながら、僕は朝の冷たい空気を嗅いだ。