RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

キスについて(恋愛騒動その後)

彼女と付き合っている間、多くの時間を占めていたのは彼女の通う文芸教室だった。私も文章がうまくなりたいし面白い小説が書きたいな、と思っていたので彼女に紹介してもらい、通うことにした。

そこでは年上の男女がほとんどだったのだが、幾人か年下の女性もいた。その中では興味もなかったし、別に遊ぶ気もなかったので、普通にお話して年上の方からイジられたらギャグにして、となんとなくコメディリリーフのような役回りになっていたと思う。

そこに通ううち、彼女に怒られて軽く不仲になった時に、同じ文芸教室へ通っていた未婚の女性と既婚女性から好意を寄せられた。未婚女性はAとしておく。

Aにアクションを起こされた時も、もう一人の既婚女性Bから告白された時も、彼女に報告した。ちょっと嬉しかったのか浮かれている気がしたが、彼女に報告することで何も隠し事はないと言いたかったのかも知れない。彼女は笑ってちょっと遊んであげたら、と言い放ったので、別に怒ってはいないのだろう、と思ったのがいけなかったのだろう。

 

取り敢えずどこかにいきたいと言われたので、Aとは食事をして、恵比寿のウェスティンホテルのバーで飲むことにした。自分としては結構飲んだので、Aは強いねお酒、と言ってくれた。が、かなりの酩酊状態だったことは否めない。次はどこへ行きたいとか、適当なことを話しながら時間もいい頃だし、さて帰ろうと促した。ホテルの玄関でタクシーを呼ぶと、Aを乗せてさよならと言ったのだが、Aはシートをバンバン叩いて、ん!とか言う。

えー帰りたいよ、と言ったのだが押し問答になっても嫌なので、仕方なく乗り込み、Aの部屋へ行くことになった。

部屋へつくとお風呂用意するね、とか言われたので、着替えがないし独身女性の部屋に泊まるわけには!と抗弁したのだけれど、脱衣所に押し込まれ、仕方がないと諦めお風呂へ入った。Aがほんとに酔ってるのか疑わしかったのでぱぱっと体を洗い、服を着てダッシュで出ていくと、寝るところはベッドしか無いよ、と言われる。

ちょっと待てそれなら私は開いてる部屋で寝かせてもらう、というとベッドぐらいなんてことないでしょ、とキスされた。

Aさんあのね…秘密が増えてしまうじゃないか。困惑していると、わたしがお風呂上がるまで待ってて、と言われた。だがこれ以上の問題を抱えたくないのでベッドの隅に取り敢えず潜り込み、丸くなって寝てしまうことにした。彼女に言えないことはなるたけしたくないのに…などと考えながらウトウトしているとAがベッドに潜ってきた。しかし揺すっても私が反応しないと、ほっぺたにキスしてきた。眠ることにしたらしい。据え膳食わぬは…などというけど、それは相手が誰もいないやつのセリフだよな…などと思った。

翌日Aの家から帰り、メールでそれを報告した時、烈火のごとく怒った彼女に悪罵を浴びせられ、だって報告したじゃないか、と彼女の前ではつい弱々しくなるのだが、帰れなかったわけじゃないでしょ!と決めつけられ、駅前の漫画喫茶に泊まるつもりだった、と弁明した。あんなおっぱいのちっちゃい女に!って言われてほんとにこんな事を人は言うのか、と怒られている最中にくすっと笑ってしまった。精神状態がおかしくなっていたらしい。それ以来Aからは距離を置くことにした。

 

それから一年くらい。文芸教室の後のおなじみの打ち上げで、彼女が休みだったのでつい度を過ごしてしまい、酔い醒まししようとぶらぶら歩いていたら後ろからBが「酔い醒ましですか?一緒に良いですか?」と声をかけてきた。

丸まっちくて少し愛嬌のある、でも好きでもなければ嫌いでもない顔。なんでそういう場所で恋愛求めちゃうのかわからないのだが、彼女も最初は出会いが欲しかったわけではなかったのだろう。熱心にテキストを書き、先生の講評を得ることが楽しかったに違いない。聞いたこと無かったのでわからないけど。

適当なカフェへ入ってBとアイスコーヒーを飲んでいると、なぜだかBがみるみる緊張してくるのが見た目にも分かった。でも緊張する理由がわからない。こっちはまあ呑気にしていればいいやぐらいの勘定で、あくびなどしてみせた。猫みたいな感じに。

そうしていると、意を決してBが言った。「好きなんです。つきあってください」

えー、またか。彼女に叱られるよ…今度はなんて言われるか。怒られたくないなあ。

本当に彼女には興味がなかったので、まあちょっと待とうか、気の迷いだどうせすぐに考え直すよ、みたいな事を言って私は帰ることにしたのだが、考えてみたら彼女と同方向なので車内でポツポツ話しかけられるのが苦痛だったことを覚えている。

今回もメールで彼女に報告した。かなり不思議なのだが、以前のことが有ったにもかかわらず彼女は笑って遊びにでも連れ出してやったら、みたいな事を言ったのだ。

もしかしたら、メソメソした私の態度が彼女の自信だったのかも知れない。

Bとはちょっと遊んでやればそれで満足するだろう、と思っていたのだがぜんぜんそういう気配がない。ついには手も出さないつもりなんですか?とか言われてしまった。そういうこと言っちゃいけません、と言ったがBはJR関内駅のもうシャッターが閉まった地下街で、強引に抱きついてきた。

据え膳…などと考える余裕もなく、キスされ、いつしかこちらから抱きしめていた。ああ、これは秘密だ…バレたら彼女が離れてしまう。そう思いながらキスしていた。

 

もはや語るべきことは語った。この事は絶対秘密であり、教室の誰にも迷惑をかけてはいけないとBに約束させ、望まれるまま肉体関係を持ち、色々と遊んでやった。だが嫉妬深かったBは私の挙措から彼女を疑い、略奪する決意で乗り込んだりもしてきた。

既婚者が略奪愛するとかどうなってるんだ。めちゃくちゃこんがらがってるぞ。

そんなわけでBも離れていき、偶然だが文芸教室は閉講となった。そのためもあり、彼女も私から離れていった。仕方がない彼女も既婚者だったのだから。

恋愛の醍醐味、そしてその失われた夢が私を苛む。それは夢だからだ。夢は現実になりえない。

 

また尻すぼみになったなあ。まあ書けないことも有るから仕方ないよ。