RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

書き忘れていた、間に合わなかった風景

正月に野辺地へ行った時、ぜひ書こうと思っていた事を忘れていた。
読み返して、気がついた。
書こうと思っていたのに、野辺地川の川面に群れなす鴨の写真を見ていたからだ。

この旅行の間、とにかく写真を撮ろうと思っていた。
いつも手放さず、何かあったら撮ってやろうと思っていた。
別に何か、理由があったわけじゃない、ただそう決めていただけ。
手持ちの携帯のメモリが、どのくらい撮ったら満杯になるのか知りたかった、ということもある。

スーパー白鳥に乗った時、進行方向に向かって座った私は、窓から空を眺めていた。
それは航空自衛隊でちょっと有名な、三沢の手前あたりまで進んだ頃だった。

下生えも茶色く枯れた冬の林の中で、派手な蛍光オレンジの帽子をかぶった小太りなおじさんが、大きな犬を連れて散歩しているのが見えた。
服装が何か、猟友会のようだったから、きっとあれは猟犬だったのだろうと思う。
そのおじさんは一人、笑顔で大きく手を振っていた。それは楽しそうで、まるで知り合いにでもあったように。犬は行儀良くそばに座り、走り去る電車を見ていた。
私はおじさんの笑顔が、通り過ぎるまで目で追った。視界から消えるまで、おじさんは手を振り続けていた。

私は少し身じろぎした後、携帯の写真を撮り損ねたのを残念に思いながら、上げかけた手をおろした。
それは、たった5秒ほどだけれど、今も鮮明に覚えている。