RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

腕の傷が痛む日

いつからか増える事のなくなった、腕の傷が今日痛んだ。
鬱積してどこかに放り出せもしないものや、誰にも伝えられない思いがつけた傷だ。
あの時、傷つける事で耐えた。カッターナイフが皮膚を走る時、いつも痛みは感じなかった。
陶酔と冷静が入り混じった気分が、それを押さえつけていた。
恐怖を押し殺し痛みを無視する事で、虚しく悲しい時、心のカラの部分を埋めた気がしたのだ。
もちろん、それが欺瞞であることはわかっていた。
自分を傷つけてなんの意味もない。
けれど、傷に意味を持たせる事で、私は耐える事ができると信じていた。
それはなんとくだらなく甘美だったろうか。

今日、腕の傷が痛んだ。長く長く、皮膚を這う白い傷あと。
押し殺してしまった痛みが、ひしり、と皮膚を走る。
今の私に意味を与えてくれ。頼むから失った意味を与えてくれ。
私は痛みを感じるたびに、強くなる虚しさに祈った。

しかし、私にはわかっていた。
意味をなくしたのはおまえだ。そう、傷は私を責めていた。