1.クトゥルー再来(復活と言い換えても良い)の際に起きる災害は、おそらく人類が経験してきた激甚災害のトップに君臨すると思われる。妖神グルメ(朝日ソノラマ/菊池 (1984/06))によれば、広さが関東平野に匹敵する島が、深海から一気に、傾くこと無く浮上したためその勢いに乗った津波が環太平洋のそこここで、重大な災害を引き起こす、と記載されている。
これについては異論もあるが、おおよその災害を予想する上で役に立つ考察である。だいたい人類史でこれだけの急激な自然現象が起きた際には、人類が生き延びるのはかなり困難のある事象なのである。
そしてその災害を生き延びたとしても、クトゥルーの強大な精神波(邪悪と言い換えても良い)を真正面から人類は個々で受け止め無くてはならない。
過去星辰の重なりによって、短時間復活したクトゥルーの精神波では、繊細な神経の芸術家や幼児、その他の人々が影響を受け、発狂するなどの被害があった。しかしそれは星辰が完璧な重なりでなかったために、クトゥルーの本来の能力が発揮できなかったという事が想定できる。そうでなければ、人類はすべて深きものどもに征服されるかも知れなかったのだ。
それではその精神波にどう対抗すればよいか。
率直にいって、この問題については対抗策がない。ミスカトニック大学工学部で開発されたというヘルメット型の精神波遮断装置が、多少は効果を見いだせるそうだが、定かなものではない。だいたい精神波という非科学的なものを扱うことに、工学部では論争があったということだ。
形而上学部の考察がなければ、端緒がつくこともなかったであろうものに、そこまで信用が置けるかと言う問題でもある。
これには、まだ相応の研究開発の時間が必要であろう。
2.では復活を阻止することについてはどうだろうか。
永劫の探求(青心社/ダーレス (1981/08))によればルルイエ浮上を阻止するため、アメリカ軍の核実験にかこつけて、核攻撃を実行したという。
しかしこの攻撃はクトゥルーの眠りを妨げることさえ出来なかった模様だ。その後に編纂された手稿や論文では、この核攻撃を一顧だにしないものが大半だったからである。
思慮深い読者諸兄姉におかれては、実際海底深いルルイエでは広さ深さからすれば核攻撃など針の一撃に過ぎず、眠りを邪魔することなど難しいことを納得されるだろう。いうなれば、あれはロマンでありテストでしかないと筆者は愚考する。
本当にやるなら対消滅爆弾が現実的だが、反物質が生成できたのはごく短時間なので、現状はこれを省くしかない。だかそれを考察する必要がある。それに従って考えてみよう。
現状ルルイエを消し飛ばすほどの対消滅反応は、作れない。だが作り、ある程度の時間保持することはすでに出来ている。であるから、研究が進めば対消滅爆弾を作れることは疑いがない。
しかしその対消滅は力学的な反応に従って、地球に空白を生んでしまう。
反物質爆発のエネルギー、そしてそこに生まれる空白は時空も歪める危険性があるし(核爆発程度でも時空間に影響を与えることは知られている)、その空白には海水、大気などあらゆるものが流れ込む。
そのため大気変動や海流の変化、気候の激変などを考慮に入れなければ使うことは出来ない。我々は地球環境を犠牲にしなければ神を殺せないのだ。
もっとも重要なのはルルイエから開放されたクトゥルーがどうなるか、である。
反物質爆弾が無事爆発したとして、クトゥルーは死ぬのか?単なる上位宇宙生物なのであれば、殺すことも出来はするだろう。だが、それでなお神を殺すことは出来るのか?
3.問題なのはクトゥルー復活に乗じて台頭してくるその他の神性であろう。
個人的にはイタカ、そして黄衣の王であるハスターではないかと思っている。他の神性もいることであるし、ついては別項を立てて考えて見たいと思う。
さて、色々と考察してみたが、人類の歩む道は平坦でもなければ、祝福されてもいない。
神を思う時、私は息が荒くなる。神にとって人間などアリの如きものなのだ。