RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

虫の知らせ


少し、思い出話を書こうと思う。


昔、実の弟が交通事故で亡くなった。
漫画家として売り出し中だった彼にとってまさにこれからと言える時の事故だったために、葬儀の席ではずいぶん周りの方に惜しんでいただいた思い出がある。


その日、彼はようやく借りたアパートに早朝、郵便物を取りに行った。
マンガの連載が軌道に乗り、単行本も出てようやくプロとして形になってきたところで、実家を出て歳若い妻と新居を持とうと四苦八苦して借りた家だった。

オートバイの好きだった彼は、これも最近になって手に入れた400ccにまたがることが楽しみだった。実家から少し離れたアパートにバイクで出かけることが、最近の気晴らしだったと言う。

ちょうどその頃、私も実家住まいをしていた。そろそろ実家を離れて部屋を借りようと思っていて、その日は私が引越しをするちょうど一週間前だったように記憶している。


その日はとても寝苦しい朝だった。
私は何か判らないがとても大きなものに圧し掛かられる夢を見ていた。
あまりの苦しさに目を開けた時、家の電話が鳴った。
そのベルを聴いた瞬間、私と三番目の弟、そしてその下の弟が寝巻きのまま一斉に部屋から飛び出した。
なぜ飛び出したのかは判らない。けれど誰一人鳴る電話を取りもせず、私たち兄弟は玄関を駆け出し、何も判らぬまま四方を見ていた。
焦燥感にさいなまれ、けれどなぜ外に飛び出したのかも判らず私たちは家に戻った。


戻ってみると彼のお嫁さんが泣いていた。
早朝に鳴った電話は警察からだった。交通事故で対向車に轢かれ、今は警察の安置所にいる、と知らせる電話だった。

今もそうした事は時々起こる。
長らく電話もしなかった実家に連絡してみようと、気まぐれに電話するとちょうど4番目の弟が交通事故でICUに担ぎ込まれたところだと伝えられたりする。

幸いに最近はないけれど、ときどきその感覚を思い出しては、何だったのだろうと思う。