RE:あらかじめ失われた日記

珈琲や紅茶が好きなおっさんです。でも別に銘柄にはこだわりません、日東紅茶とネスレのポーションで十分。

友がみな我よりえらく見える日は/上原隆

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この本は読むのがつらい。小説ではなく様々な人の淡々とした日常を描くドキュメンタリー、聞き書きなんだけれど。
登場人物たちは、それぞれに日常の苦しみ、言い換えれば人生の谷間にいる。その谷間を抜け出ようとする人もいれば、やり過ごそうとする人も安住してしまおうとする人もいる。
誰の人生にもある日常は、つらい。
中でもホームレスと芥川賞作家の話が胸に痛い。
ホームレスは日々駅のゴミ箱から雑誌を拾う。聞き手が話を聞きながら付いて行く。
決別し捨て去った過去を語り、別れた家族の事を話すけれどこうであればいいと思う夢を語るのか毎回内容が少しづつ違う。彼はしかし、その内容を毛ほども疑わない。

芥川賞作家は妻子も有名である事も捨てて、アルバイトをしながら自分の精神世界だけを追い求めている。書きたい物しか書かないと宣言して、小説家の道を自ら閉ざしてしまった彼は、日々本を読む。精神世界を豊かにするために。
つらい事も悲しい事も精神との対話には関われない。読書しながら想像し思考が走るがままの生活。それが作家のすべてだ。
しかし子供の事を語り出すとその様相は変わってしまう。
子供を思いやる親の気持ちになった時、つらいですよと涙を浮かべる彼は何を考えるのか。


表題は石川啄木の短歌から採ったものだという。短いし時間もかからず読める本である。けれど、その短いエピソードに、限りない重さをおぼえてしまう。

人はそれぞれの時間を生きる。
それぞれにしか判らない感慨を抱く。
何かを求め、彷徨っている。

読むたびに考え込んでしまう本である。